『月刊美術』1998年11月号掲載

コラボレーション

籔内佐斗司(彫刻家)

智慧の実童子
 違った分野の複数の組織やひとびとがちからを合わせて、より大きな成果を挙げるために一緒に作業をすすめることを「collaboration」といいます。音楽の分野では、ふだんは別々に活動しているアーティストが同じステージで演奏したり共同でレコードを作ったりする際に使われます。現代の美術においては、ひとりの作家がアトリエで行う孤独で自閉的な行為が称揚され勝ちですが、素晴らしい能力をもったひとたちが、お互いに補完しあい刺激しあってよりダイナミックな芸術を具現化しえたなら、それは享受する側にとって大きな幸せとなることは間違いありません。

ゴーシェの夢
 私はおもに画廊で作品を発表してきましたので、私の作品を最初に評価をするのはいつも個展を企画した画商さんでした。ですから私は、展覧会は作家と画廊主が一緒に作り上げるものだと思っています。  十数年前、三十過ぎの駆け出しの作家だった私を拾いあげたのがフジヰ画廊の社長であった藤井一雄氏でした。当時の多くの画商さんたちは、新作の木彫などには目も向けなかったころです。私はちょうど父親の世代にあたる藤井さんをびっくりさせることだけを目的に作品を作っていたといっても過言ではありませんでした。また藤井さんは、ニューヨークでの個展、現美展、潮音会、TOKYO ART EXPOなど駆け出しには信じられないような大舞台へ私をつぎつぎと押し出しました。私はそれに恥じないように、そして藤井さんの驚く顔が見たくてしゃにむに作品を作り続けました。あのころの私の個展は、私と藤井さんとのコラボレーションであったと思っています。

 数年前から藤井さんのお孫さんの亮くんをモデルに作品を作っています。毎年一回アトリエで写真家の遠藤純さんに亮くんの写真をたくさん撮ってもらっています。私はその横で亮くんのすがたを目に焼き付けています。ふだんめったにモデルを使わない私ですが、生命力のかたまりのような彼を観察していると、やはり新鮮な感動を覚えます。藤井さんにとっては、目に入れても痛くないお孫さんの姿を私に記録させたいとの思いもあるのでしょうが、同時に作家に新しいモチーフを与えて成長させたいという画商としての意気を感じました。さきごろ東京美術倶楽部で催された「第14回東美特別展」でフジヰ画廊のブースに並べた作品は、このようにして生まれた藤井一雄氏と私の久々のコラボレーションの産物でした。
聖器シリーズ
活花:川崎景太

 画廊で企画される「グループ展」も、複数の作家がひとつの展覧会を作り上げるという意味ではコラボレーションです。また作家が切磋琢磨して真剣勝負を挑むような「グループ展」の企画は、画廊主の手腕と器量のみせどころです。私のように無所属で個展を中心に活動し、作家たちと触れ合う機会の少ない者としては、面白い顔合わせの「グループ展」はとても楽しみで、声を掛けられれば極力参加するようにしてきました。今年も、現美展(五都美術商連合会)や同じ世代の日本画家たちとの「昊々会」(小林画廊)、澁澤卿さんとのふたり展(木田画廊)、古いおつきあいのいくつかの画廊でのグループ展に加えていただきましたが、たくさんの作家と競い合えることはとても幸せなことです。

またなんといっても、美術業界では日本画と洋画が主流です。彫刻は、ほんの少数派ですから、画商さんが企画する「グループ展」では、寄席で例えるなら落語や漫才のあいだに出てくる「ボーイズもの」、懐石料理の「箸休め」といった趣がなくもありません。それゆえに何かと目立ってしまうという特典がなきにしもあらずです。

 私は、自分の作品が美術という範囲にとどまることなく、異なった分野の才能とともに作り上げる総合芸術の一翼を担えるような仕事をしたいと考えています。建築家やまち作りの担当者と一緒に進める「Art for the Public」と名付けた一連の仕事もコラボレーションのひとつです。また十年以上暖めている企画としては、仮面劇があります。脚本家、演出家、音楽家、照明家、俳優、舞踏家、衣装デザイナーなどあらゆる分野のひとたちと作り上げる総合芸術、これには長い時間がかかるでしょうが、いつか必ずスポンサーやプロデューサーなど素晴らしい人組みが自然にできあがるときが来ると信じています。
 この秋から、とても意欲的な巡回展が始まります。「籔内佐斗司、“花”と出会う」と題されたこの展覧会は、東京、名古屋、大阪、福岡の四つの画廊が私の作品を三人の花を扱うアーティストに提供し、思う存分料理をしてもらおうというものです。素晴らしい「花」のアーティストたちと私の作品が織り成すコラボレーションは、必見の価値ありとお薦めいたします。


西荻窪六童子めぐり

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