東京藝術大学大学院文化財保存学彫刻研究室では、関東地方の某市指定文化財の金剛力士吽形像を修復しています。

2mを超える同像は、後世に幾度も修復が行われ、表面には厚く紙張りが施されて造立当初の像容が覆い隠されていたため、今までの時代判定では室町〜南北朝とされていました。ところが、当研究室で慎重に後補の紙張りを矧がしたところ、虫喰いや朽損が著しいとはいえ、鎌倉時代特有の見事な彫刻面が顕れました。その後、順次解体作業を進めていますが、今のところ胎内からは造立年代や作者を特定できる銘文は発見されていません。

しかし、直径が1.5mを超える巨木の半割材を用い、両腕や天衣を除いた体幹部は衣文の先端までを含む一木割矧ぎ造で、右脚は割り脚という非常に古風な構造であることがわかりました。像の形状は、興福寺国宝館安置の大仏師法師定慶作 国宝金剛力士像と極似していることも興味深いことです。

ご覧のように凜々しい顔立ちに非常に美しい肢体をもった像で、美術史の専門家からは、鎌倉時代の仁王像としては、もっとも古い時代に属するのではないかというご意見です。

来年度には、阿形像の修復も始まりますが、そちらの方には銘文がある可能性も残されています。今後が、とても楽しみな修復事業です。しかし、慧日寺薬師如来坐像の制作が終わったとたんのこの発見で、研究室は息つく暇もありません。






興福寺定慶吽形像