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かたちの時代性

                                    籔内佐斗司(彫刻家)

 芸大の学生というのは、案外ほかの科のことは知らないものです。たとえば油画科の教授は誰で、陶芸科の先生の作品がどんな特徴を持っているのかなんてことは、彫刻科の学生であった私はとんと知りませんでした。芸大の教官の定年は六十七歳で、国立大学のなかでは一番遅い方だと聞いていますが、先生方が退官される年に開催される「退官記念展」で、その偉業を知りびっくりすることが多いものでした。また、大学の雑事から解放された退官後の作品の方が、意欲的で若々しい作品が多くなるなどとと口の悪いことをいうひともいます。
 なにやら言い訳めきますが、私が高橋節郎先生の作品を知ったのはすでに助手をしていた頃で、芸大の付属芸術資料館で行われた先生の退官記念展の時でした。漆黒の地に繊細な金で描かれた沈金の作品に、吸い込まれていくような広大な空間を感じたことを思い出します。また色漆や象眼など多様な加飾を使った作品群を前にして、漆という素材の魅力にただただ眺めいったものでした。
 当時の私は、仏像の修復を通じて学んだ漆による仕上げを、自分の彫刻作品に活かせないものかと試行錯誤繰り返していた時期でしたので、先生のさまざまな技法を一堂に見る機会を得ておおいに刺激を受けました。
 近年先生は、彫刻的なオブジェを発表しておられます。それらを拝見していると、作家の造形は、あきらかに時代性を反映するものだとあらためて実感いたします。木の枝のような、三日月のような、あるいはずわい蟹のはさみのような形は、大正三年にお生まれになり精力的に制作をされた昭和二十年代から四十年代という「時代」をつよく感じます。高橋節郎個人を超えて、先生が育ち学んだ時代のかたちが、最高の技術を使い余裕を持って再生産されていることに驚きます。八十をとうに過ぎても、なお悠々と制作を続けておられることをお聞きし、つくづくもの作りとは幸せな職業だと感じずにはいられません。あやかりたいものだと思います。
(月刊美術)

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