「天狗」もことばは中国が本家で、前回の「鬼」と同様に日本とはずいぶん趣が違います。
むかし中国では、流れ星を天からのお使いとみなしていました。そして地上に大音響とともに落下した隕石の周辺には犬のような霊獣が現われると信じられていました。そこで大きな音をともなった流れ星を「天からやってきた犬」という意味の「天狗」と呼ぶようになったということです。
ものの本によりますと、欽明天皇9年に、おおきな流れ星があり大音響を轟かせたとあります。
ときの物知りが「これはただの流星ではなく、中国でいうところの天狗である」と言上し、それを「アマツキツネ」と翻訳したことから天狗がキツネに類するものと理解された時期もあったようです。わが国では、キツネを神の使いとみなす考えが古くからあったことがわかります。
大きな隕石の落下は山火事や粉塵、臭気あるいは放射性物質の飛散などさまざまな異常事態をともないます。むかしのひとがこれを天からの不吉の知らせであると考えたのは自然なことでしょう。
こうした自然現象が、怪しげな生物の出現や天の凶兆へと結び付けられていく際に、山の民とりわけ易占や祈祷を生業とする修験者と関わっていくところから日本独自の「天狗」のイメージが醸成されていったのではないかと私は考えています。 |