生まれが大阪ですから、「関東の味付けは合わないでしょう」とよくいわれますが、もう四半世紀以上も東京で暮していますからそんなことはありません。
東京に出てきたばかりの頃、目白にあった美大受験専門の画塾に通っていました。当時の昼飯は商店街にあった立ち食い蕎麦屋でした。毎日のように、かきあげ天ぷら蕎麦に薬味の白葱を山盛りのせて食べていました。まっくろいだし汁の蕎麦は、大阪では食べたことのない味覚でしたが、栄養不良気味の当時はほんとうにおいしいと思いました。おかげで立ち食い蕎麦は今でも大好物の一つです。
関西人が納豆を食べないというのは、デマです。少なくとも昭和三十年代、私が育った大阪の南部ではふつうに店頭で売られていましたし、関東ほどではありませんが食卓にのぼっていました。決して納豆を食べるひとを差別したり隔離したりはしませんでした。
関西料理が薄味だというのも誤解です。たんに醤油の味や香りや色を「だし」に出さないようにしているだけで、そのぶん塩はずいぶん使います。醤油はできるだけ生(き)のままで使うか、素材の生臭みを消すための隠し味と関西人は考えているのです。
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