国指定重要文化財の修復は、京都国立博物館のなかにある国宝修理所に運ばれて、文化庁文化財保護部の監督のもとに特定の専門業者にしか作業をすることが許されていません。ちなみに彫刻と大型の工芸品は「財団法人美術院」が一手に行っています。この団体は岡倉天心が創立した美術団体「美術院」の系譜を引き、院展を主宰する「財団法人日本美術院」とは兄弟関係になります。「古社寺保存法」の制定に関わり、東京美術学校の創設者でもあった天心の偉大さをあらためて感じます。
歴史上、文化財を破壊してきた最大の原因は、地震や火災などの天災ではなく、人災であることはよくいわれることです。文明間で起こる戦争では、文化財はひとたまりもなく破壊されてきました。また宗教や思想・道徳の名のもとに徹底的に破壊された文化財もありました。
中世のイタリアでは、打ち捨てられたローマ時代の遺跡の大理石を教会や家屋の建材として再生していました。当時のひとびとにとって、キリスト教以外の神殿や彫像をリサイクルして使用することに何ら罪悪感はありませんでした。 |