『月刊美術』1999年10月号掲載

数字

籔内佐斗司(彫刻家)

 21世紀は2001年から始まりますが、キリスト教圏のひとびとにとっては、百年単位の世紀より千年単位のミレニアムの方が、宗教的には重要な意味があり、来年は特別な節目の年です。

 原始キリスト教には、紀元千年から1999年までの千年間を、キリストや聖人たちが再臨し世界を楽土に変えるという「千年至福王国」の思想があり、中世からルネッサンス、大航海時代、地球規模の植民地支配など、キリスト教圏の驚異的な拡大の推進力ともなりました。もっとも非キリスト教圏にとってははた迷惑な思想ではありましたが。
 そして1999年は「千年説」が説く神が人類への最後の審判を下す年として、敬虔なキリスト教徒には恐怖の年でもあったわけで、ミケランジェロの壁画やロダンの地獄門のテーマにもなりました。もちろん現代に最後の審判を信じているひとは殆どいなかったでしょうが、西暦2000年は深層心理のなかであらたなる千年王国の始まりとして特別の意味が込められているのです。そして日本でも各種便乗商法やあやしげな新興宗教の信者集めに、最後の審判やハルマゲドンが盛んに使われたことは記憶に新しいことです。またコンピューターの2000年問題も、技術的な危険性だけでなく、西洋人の深層心理からくる数字の魔力によって助長されている面もあるのではないでしょうか。


三好青海入道

六瓢神農童子

 国民の総背番号制が国会を通過し、国民ひとりひとりの情報が数字によって管理される時代がきました。もっとも、とっくに学生は学生番号で管理されていますし、郵便物も七桁の郵便番号に町名と番地だけで届いてしまいます。銀行の預金やクレジットカードもすでに個別の認識番号で管理されているわけですから、プライバシーの侵害や非人間的な方法だという批判はあたらないと思います。公のサービスが効率化し向上するのであれば、私は大賛成です。
 表意文字の王国・中国では、数字の発音が漢字のいずれかの発音と重なるために、多くの数字に意味を持たせることができるそうで、縁起のいい数字に対するこだわりは日本人の比ではないようです。電話番号や自動車のナンバープレートのそういう数字は、高額なプレミアムが付いて取引されています。
 中国とは比較になりませんが、日本でも数字の音をほかの字の音と関連づけ縁起を担ぐ場合があり、ホテルや病院では13号室や42号室を設けていない場合が多いようです。

 私はブロンズの作品を作っています。ひとつの原型から、いくつかのエデイション(限定数)を刻んでいくわけですが、お客様のなかには、数字によって縁起のよい、悪いをとても気にされる方がいらっしゃいます。「1」番はもちろん人気があります。また「3」がお好きな方も大勢いらっしゃいます。「7」はラッキーセブン、「8」は末広がりで喜ばれます。「9」は「苦」に繋がるから嫌う方と、「カブ」にひっかけて喜ばれる方と二通りです。
 嫌われる数字は、「4が死」のように、音に由来する場合がほとんどです。作家によっては、そうした数字を「欠番」にする方が多いようです。しかし私は限定数と実際の販売数を同じにするために、欠番は設けていません。そのかわり、「禍転じて福と為す」ではありませんが、嫌われる数字も、解釈の仕方で縁起のいい数字に変換しています。

八卦よい突進童子

よろこぶ童子(ブロンズ)
 「4」は「死(し)」と読まず、「よ」にすれば「良い、善い、好い」に繋がります。「9」を「苦(く)」ではなく「きゅう」と読めば、「極める、窮める、究める」になりますし、もちろん最強の「カブ」の数字です。「13」は耶蘇教徒でない方はもともと気にする必要などありませんし、「富み」と読むことができます。また私が生まれた慶賀されるべき日でもありますから、私のブロンズ作品をお求めの方は、ぜひ「十三番」を狙って頂きたいくらいです。
 一番困ったのは、「42」です。「死に」と読めるためにもっとも嫌われます。さんざん考えたあげく、私は「41+1」と表記し、「良いことが、さらにひとつ加わる」としました。「142」も「人死に」につながると嫌われますが、「141+1」と表記して「一番良いことが、またひとつ加わる」と解釈すればこのうえなくめでたい数字となります。
 「49」は「死と苦」につながるとしてやはり嫌われる数字です。しかし「首尾良く」「お日柄も良く」の「よく」と読めば、たいへんめでたい数字です。また算術の「九九」でいえば、49になるのは7の二乗ですから、「ラッキーセブンが重なってできあがる数」です。

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