『月刊美術』2000年4月号掲載
籔内佐斗司(彫刻家)
職人型人種は加工にこだわり、観念型人種は発想にこだわります。「フェイクはフェイク」で終わるか、「別の素材でどれだけ実物の風合いを出せたか」を評価する姿勢は、本物の感触に対する感受性の違いから生まれたともいえます。
しかし、こどもたちの環境を考えたとき、朝の歯ブラシや食器にはじまり、衣類、かばん、文房具、家具や床板表面の塗装や内装材、おもちゃやテレビやゲーム類などほとんどが合成樹脂でできています。また道路や運動場の表面、建築物、乗り物なども合成素材であふれかえって、天然素材に触れることのほうが稀というのが現状です。生まれた時からこのような素材に囲まれて育ったこどもは、それが天然素材の代替材や擬物という意識はまったくないでしょう。そして絹を虫が作っていることや綿が花から作られること、シャツのボタンが貝殻でできていることのほうが不思議であるかもしれません。