【銀花】 受難の左手 木彫り屋である私の左手は、右手によって木槌や金槌でひっぱたかれ、産毛も剃れるほどに研がれた刃物で絶えず傷つけられます。一番悲惨なのは人差し指です。右手で握った刃物の手許が狂うと、決まって左手の人差し指に突き刺さって止まります。細かい傷が無数にあって変形しています。曲げると突っ張って、爪で押しても感じない部分もあります。 四年前、親指の付け根に彫刻刀が突き刺さって、指を曲げる腱を切断したことがありました。屈筋腱を切断してしまうと指はピンと伸びたまま曲がらなくなってしまい、壊れた機械そのものでした。幸い「手の外科」の名医のおかげで腱は無事に繋がり、以前にも増して酷使に耐えています。無傷の右手と傷だらけの左手を見比べてみると、なにやら人の生き様を見る思いがいたします。 (1999.6)