「いい箱ゆきですね」
池内克哉(いけうちかつや)/茶道具商、茶人

 我国が世界に誇る文化の筆頭である茶道はあらゆる工芸品や歴史を取り込んだ類い希なる綜合芸術と云っても過言ではありません。

 その中でも木との係りは言う迄も無く大変に深い物があります。私は茶道具を商い時々茶事を催して居りますが例えば茶を点てる際に用いる炭はと云えば元は木材であった訳で、薄暗い席中にてまばゆい光を照し我々の心を魅了します。

 新緑の頃より始まる風炉の季節の土風炉にくべる香木からは精神を落着かせ頭の回転を良くする作用が有る様で香を聴く時その香りから無声の音を聴く事が出来ます。茶席の中では棚、炉椽、茶器、懐石道具の膳、椀、箸等に至る迄多くの木で出来た物が有ります。又茶人達は朝鮮の楽浪時代(日本の弥生時代)の埋木迄をも風炉先、炉椽、香合に仕立てて楽しんで居ります。我国にあっては奥州名取川より掘出された埋木で香合を作り内側には立派な波蒔絵を施して名取川香合として大変に珍重して居ります。神社仏閣の古材も捨てられる運命から炉椽や香合として再生され立派にその存在感を示して居ります。

 茶道具として表舞台に立つばかりではなく木は茶人達が尊ぶ掛物、茶碗、茶入等のあらゆる道具を保護する為にも箱と云う姿になって役立って居ります。桐、杉、樅(もみ)、鉄刀木(たがやさん)等で出来た箱にも材料を吟味し「いい箱ゆきですね」と云う言葉で云われる独特の美意識をも確立いたしました。

 木造建築物とコンクリートで出来た建築物との一番の違いはコンクリートの建築物は出来上がった時が一番良い美しい状態であるのに対して木造建築は日増しに美しくなって来ると云われます。

 木で出来た茶道具も同じ事が云えるので先人達が大切に慈しんで来た箱からは茶人の愛情や霊気さえも感じられます。日増しに美しくなる茶道具を大切に後世に伝える事が我々茶道具商の使命かと存じます。

池内克哉(いけうちかつや)
茶道具商「池内美術」主人、茶人

1937年に生まれる
    石川県立金沢泉丘高校卒業
1955年より1966年迄、茶道具商「赤坂水戸幸」にて修行
1966年独立 現在に至る

東京美術商協同組合副理事長
東京美術倶楽部取締役
財団法人小堀遠州顕彰会理事

池内美術URL; http://www.ikebi.co.jp/

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