木の骨董
深井 隆/彫刻家

 骨董市に足を運ぶようになって20年以上になる。住まいから近いせいもあり、新井薬師の市によく顔を出す。骨董市の面白さは何と言っても種々雑多な品目が所狭しに並べられていることだろう。焼き物から書画、西洋骨董、家具などという定番から、わけの分からぬガラクタまでが、ありがたく置かれていたりする。一般的に言えばこのような市に通い、だんだんと眼も利き、いつしか青山や日本橋あたりの古美術商に通うようになるのかも知れないが、私は、そのガラクタの並ぶがさつな雰囲気とその楽しさに、市通いを止められない。もっとも、先立つものの無いせいであることも、もちろんあるのだが・・・。

「逃れゆく思念 -旅人- 2003」

 さて、骨董市にも木に関するアイテムはいくつかある。私も20年程の骨董遍歴中に、いく種類か集めた。その一、30歳台前半に1年近くの間イギリス(ロンドン)に留学していた。ロンドンは世界でも骨董市の盛んな国で、市内のあちこちで大きな市を開いている。その中でポートベローや、住んでいたフラットの近くのカムデンマーケットには度々行った。そこで、大工道具のちょっと古い(古くても100年位前の)ものを買った。鉋、大工鑿、手まわしドリルなど、使い込まれた飴色のよい風合いのものなどは、インテリアとしてもなかなかおしゃれだ。帰国の時には、映画の寅さんの持っているような革鞄にいっぱいになるほどになっていた。

 次に集めたものは、江戸時代の神社や寺の、木鼻や蟇股として飾られていた木彫だ。日光東照宮に代表される装飾彫刻は大切に保存されているが、なかには建物の取り壊しの際、外され廻りまわって市で売られてしまうものもある。そんな、難民のような獅子や龍、象、獏、麒麟、狛犬、うさぎ等に出会うと(もちろん手ごろな値段のものだけだが)私は、ついつい引き取ってしまう。もちろん、さらに、値引いてもらうのだが。さながら、我が家は動物園のようになってきた。

 後は、根付である。根付には象牙と木のものがあるが、木のものは象牙に比べ数が少なくどちらかと言えばプリミティブなものが多いようだ。3センチぐらいの小さなものだが、そこに、小宇宙を感じる大変魅力的のものがある。しかし、多くは明治時代にヨーロッパやアメリカのコレクターに渡ってしまって、良いものが少なく、あったとしてもとんでもない値段になっているために、木鼻などのように難民救済というわけにはいかず、私の手元にはたいしたものは集まっていない。

 骨董(ガラクタ)集めの楽しさはそのものが持つ美しさということもあろうが、加えて時間の共有にあるのではないだろうか。江戸時代の職人が作った木彫の獅子や龍は時間の中で手や、足、鼻が欠けたり、風化によって、木目が出て彫りも甘くなってはいるが、当時の職人の技や心意気が時を越えメッセージを送り続けている。その時間を越えて訴えくるメッセージを聞きたくて骨董市詣では止められない。
深井 隆(ふかいたかし)
彫刻家

1951年、群馬県に生まれる
1976年、東京芸術大学美術学部彫刻科卒業
1978年、東京芸術大学大学院美術学部研究科彫刻専攻修了
現在 東京芸術大学美術学部彫刻科助教授
個展・グループ展等で発表
平櫛田中賞、中原悌二郎賞優秀賞、長野市野外彫刻賞、タカシマヤ美術賞、倉吉緑の彫刻賞、他受賞
著書;「13月の青空」(新潮社)

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