森林と環境問題
中本利夫/株式会社ウッドワン名誉会長

 1988年、最後の宮大工といわれた西岡常一先生に、弊社のPR誌の第一号を飾るため、法隆寺の五重塔の下で対談をお願いしたことがあります。そのときに、この塔に使われているヒノキの樹齢が何年生くらいかをお聞きしたところ、辺材(白太)が削られているので正確な年数はわからないが、千年を超えていることは間違いないということでした。
 建立されてから千三百年を超え、世界最古の木造建築であることは歴史的事実ですが、当時の輸送能力からみたときに、四国や九州から運んできたとは考えにくく、当時あの飛鳥の里に、千年を超えるヒノキの木があったものと想像されます。
 五重塔は、伐られるまで千年有余にわたって空気中の炭素を吸収してきた木材が、建立された後も千三百年有余、大気中に発散させずに体に閉じ込め続け、延べ二千数百年にもわたって自然環境に貢献している尊い姿なのです。
 奈良を訪問したときには、宗教的な面だけでなく、この尊い姿に手を合せるために、五重塔には必ず参拝するようにしています。
 一方、文明の発達とともに、鉄、銅、アルミ、ニッケル等多くの地下資源が掘り出されてきましたが、これらはいずれも有限な資源です。しかも掘り出しただけでは何の役にも立たず、石油や石炭に代表される化石燃料によって精錬されなければなりませんが、そこで吐き出される煙は地球温暖化の一因にもなっているのです。
 それに比べると、木材(森林)資源は、唯一といっていいほど再生産可能な工業資源であり、しかも、数十年の期間で再生可能であり、さらに成長しながら空気中の炭素を固定化してくれるのです。
 炭素の吸収量はというと、樹種によって大きく差はありますが、平均比重を0.5とした場合、重量の約半分が水分で、残りのうちの半分が炭素だと言われています。つまり10トンの木材がトラックに積まれていると、4分の1の2.5トンは炭素ということになります。
 もちろん木は生物なので、いずれは成熟林、老齢林とよばれ、寿命がくれば枯れる運命にあります。だから枯れる前に伐採し、住宅、あるいは電柱、家具にと利用することで、炭素を固定化できるのです。伐ったあとには植林すれば、また新たに炭素がどんどん吸収され、善循環が可能なわけです。
 そういう意味で、われわれの立場からみると、木造住宅というのは、まさに炭素棒がたっているようなものなのです。木材資源を利用することで、このような善循環が可能になるのです。
中本利夫(なかもととしお)
株式会社ウッドワン名誉会長

1929年、広島県に生まれる
株式会社ウッドワン取締役名誉会長
財団法人ウッドワン美術館理事長兼館長

著書;「木 植えて・育てて・伐る―そして植える」(講談社出版サービスセンター)
関係書籍;「山親父の経済学〜ニュージーランドで森林革命」鶴蒔靖夫著(IN通信社)
ウッドワンHP)

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