「お茶の癒し」
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渡辺孝史(わたなべたかし)/株式会社 一保堂茶舗 社長 |
中国の南方ミャンマーとの国境近くの雲南地方が原産地といわれる「茶」が日本に伝わったのは鎌倉時代の1191年、今から810年余り前のこと。臨済宗の開祖「栄西」がその種子と、粉末にして飲む方法をともに宋から持ち帰ったといわれております。それ以前からもともと日本にも「茶の樹」が自生していたとする説もあり、また平安時代の初め頃嵯峨天皇が近江地方を行幸された折りに茶を献じてお召上がりいただいた旨の記述もあり、日本人と茶の関係がいつから始まったのかは定かではありません。
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「栄西」が持ち帰り、鎌倉時代、室町時代を通じて「抹茶」の飲み方や楽しみ方が洗練されてくるなかで、やがてその所作や決め事が様式化され、村田珠光、武野紹鴎を経て千利休の活躍につながります。日本で発展した「抹茶」ですが、中国ではその後この飲み方は途絶えてしまいます。「抹茶」は新芽が萌芽した後で茶畑に覆いを掛け、太陽の光があたらないようにして栽培されます。このことで渋み成分のもとになるタンニンの生成が抑制され、旨味成分のテアニンが多くなり、「濃茶」(こいちゃ)のような濃厚なお茶も美味しく飲める訳です。科学的にはこのように解説されるわけですが、このことをどのようにして何百年も前の人たちが知っていたのでしょうか?恐らく経験的に、「木陰になって陽の当たらない茶畑からできるお茶は旨味が強い」ことを知っており、それを実際の栽培にも活かしたものと推測されます。
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世界にさまざまな植物があるなかで、カフェインを含むものは「茶」と「コーヒー」だけだそうです。それを偉大な先人たちが見つけ、飲用に使用してきました。その恩恵を享受している私たちですが、現在の日本では手軽に飲めるものが歓迎され、ペットボトルのお茶が大流行です。味や香りに工夫を凝らした様々な商品が溢れかえっています。手近にお茶を用意することが出来ない時にこんなに便利なものはありませんが、お茶は決して「喉の渇きをいやす」だけではなく、「心の渇きを癒してくれる」はずのものです。お湯が沸くまでゆっくりと待ち、沸いたお湯を使って美味しくお茶を淹れ、それをゆったり楽しむ。そのたっぷりした時間の流れの中で、心が癒されるのです。手間を惜しむのではなく、その手間を楽しむ「心の余裕」を多くの方がお持ちくださることを願っています。
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渡辺孝史(わたなべたかし)
株式会社 一保堂茶舗 社長
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1953年 東京生まれ
1976年 慶應義塾大学経済学部卒業
1982年 株式会社 一保堂茶舗 入社
1995年 同社代表取締役社長 就任
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一保堂茶舗ウェブサイト |
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