「木への想い」
宮本卯之助(みやもとうのすけ)/宮本卯之助商店代表取締役


 私にとって木といえば、まっ先に欅が思い浮かびます。
 太鼓の材質で一番良いのは欅で、日本に昔からある大きな木の中で、材は堅く、加工のし易さ、そして何よりも木目の美しさは海外を見回しても欅に勝るものは無いと思います。建材や家具などにも用いられるように、使い込むほどに何とも言えぬ光沢がでてきます。皮さえ張り替えれば、百年はおろか三百年以上も丈夫で長持ちいたします。太鼓の場合は音質が一番問題ですが、欅はそれをも十分に満足させてくれます。

 江戸時代の太鼓の張替えが時々舞い込みますが、胴の中にいつごろにどこの店の誰それが作ったかが墨で記されてあり一目で時代が判明できます。当時の太鼓は今と比べて考えられないくらい薄く彫られ丸みを帯びた胴でした。俗に良い太鼓は胴鳴りがするといわれますが、皮の引き出す力と相まってお腹にまで響きます。まさに欅という素材の良さと堅牢さの証しです。 
 太鼓作りは、欅の選定、伐採、そして玉切りといって必要な太鼓の大きさに切断し、その中心部分を円く抜いて荒胴という状態にします。それをものによって五年から十年位かけて倉庫で自然乾燥させますが、その過程で欅は暴れてゆがんだり、時には割れたりすることもあります。そうした荒胴を十分に乾燥させ落ち着いたところで、木工機械でおおよその形にし、最後に手で鉋仕上げをいたしますと光沢が出てきます。

 その上に塗装をかけ木目が美しく現れた胴に、あらかじめ作っておいた太鼓の皮を張って完成させます。平安時代、貴人は色々な道具に漆を塗り、それに蒔絵を施したものを愛で珍重いたしました。桃山から江戸時代にかけては、鼓など楽器にも美しい蒔絵を施しました。一方、一般庶民は木地そのものの持つ味わいを生かした素朴で力強い美しさを大切にしてきました。太鼓もそのうちの一つで、使い込むほどに永年の年輪を経た木目が重々しく浮き上がってきます。それらを見るとき、私たち日本人の木目に対する美意識というものを再認識させられます。

宮本卯之助(みやもとうのすけ)
宮本卯之助商店代表取締役

1941年 東京都に生まれる
1964年 株式会社宮本卯之助商店入社
1975年 代表取締役就任
1988年 世界の太鼓を集めた「太鼓館」を開館
1993年 宮本スタジオ開設/邦楽教室、和太鼓練習
2003年 七代宮本卯之助襲名
宮本卯之助商店ウエブサイト

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