ウイスキーは森の恵み
サントリー(株) /輿水精一

 9月21日、ウイスキーの国際的コンペであるInternational Spirits Challenge(ISC)の表彰式がロンドンで行われました。弊社ウイスキーはこのコンペで3年連続して金賞を受賞することができましたが、ISCに限らず、ここ数年日本のウイスキーの評価には目を見張るものがあります。

 世界には様々な蒸留酒がありますが、ウイスキーの魅力は"熟成"にあります。ウイスキーはワインと並んで熟成する酒であり、一本千円以下の商品から100万円を越えるものまで多種多様な商品が存在するのも、熟成のなせる技と言って過言ではないでしょう。その"熟成"に関するつくりのレベルの高さが、今日の評価につながっているものと思っています。

 お酒は、その味わいに造られた土地の影響が何らかの形で表れる、本来風土性の高いものです。ウイスキーも例外ではありません。日本のウイスキーづくりは今から80年以上前、京都郊外の山崎蒸溜所で始まりました。もちろん最初はスコッチの製法を真似るところから始まりましたが、その味には当然日本の風土、山崎の風土が色濃く表れました。

ウイスキーはオーク(楢)でつくられた樽に5年、10年、時には30年以上も寝かせます。長い貯蔵期間を経るだけに、貯蔵場所の気候(温度、湿度)は香味に極めて大きい影響を与えます。特に、スコットランドに比較して温度の高い夏場は、つくり手として最も神経を使うところです。ともすれば過熟になりがちで、熟成本来の美味さを損なうことにもなりかねません。それだけに一樽一樽の熟成具合を見守りながら、時には良樽に詰め替えるなど、細心の配慮が必要となります。

 加えて、日本に自生しているミズナラという木で造った樽で熟成させると、スコッチにはない独特の味わいのウイスキーが生まれます。伽羅や白檀など、お香を連想させるその香りを、先輩ブレンダー達は"神社仏閣の香り"と呼んでいたものです。この東洋的な香りは、今やスコットランドにおいても高く評価されています。

ウイスキーならではの琥珀色の輝き、甘く華やかな香りやまろやかな味わいは、オーク材の成分が長時間かけて原酒の中に溶出してきたことによります。これらの成分の主体はポリフェノールです。ウイスキーのポリフェノールの中には、私たちの健康にとって好ましい成分を多く含むことが、最近明らかにされつつあります。蒸留酒の起源はメソポタミア時代に不老不死の薬を追い求めたことにある、と言われています。もちろん、彼らの努力は徒労に終わったのですが、ウイスキーこそ彼らの求めた不老不死の妙薬であったのかもしれません。

 美味しいウイスキーを造るには、醸造に適した水が豊富にあること、良質の樽、きれいな空気(貯蔵環境)が不可欠ですが、これらはいずれも森がもたらしてくれるものです。ウイスキーは"森の恵み"そのものと言えます。いつまでも美味しいウイスキーを提供するために、私たちの仕事は森を守ることから始まります。


輿水精一/サントリー(株)

1949年 甲府市生まれ
1973年 山梨大学工学部卒業
      サントリー株式会社入社
1999年 ブレンダー室長兼チーフブレンダー、現在に至る



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