美しい山河
橘宗義(たちばなそうぎ)/大本山大徳寺別院 徳禅寺住職


 先年、大徳寺では20年振りの慶事があった。  新管長の祝国開堂式が厳修されたのである。新管長は晋山記念として大徳寺境内に松の植樹を行った。  又一昨年、大徳寺総門前が整備され、江戸時代の古図面にもある松並木参道が完成、門前の景観は一新された。  古来「歳寒の三友」として松竹梅が珍重されている。影向の松とて神の降臨を松の木に求めている。「雪後始めて知る松柏の操 事難くして方に見る丈夫の心」と云う語がある。人口に膾炙する禅語に、「松樹千年の翠」の語もある。とまれ、大徳寺の境内に松が繁茂することは吾が事ながら誠にうるわしい限りではある。  昭和天皇は戦後いちはやく全国各地に行幸され、植樹祭を行われた。平成天皇も同様である。「国破れて山河あり」、荒廃した山河を緑豊かな国土にせんとの思し召しであろうか。


『大徳寺の松』写真;森田りえ子

 宗祖臨済禅師は修行中作務の序、岩山に松の苗木を植えたことがある。  師匠の黄檗禅師が早速問答をしかけた。「こんな山奥にそんなに沢山の松を植えて何になろうか」と。  臨済は答えた。「一つには山門のために境致となし、一つには後人のために標榜となさん」と。
 木を切ることはたやすいが、植樹してこれが成長し、林となり森となるには時が要る。後人の標榜なぞと武張らなくとも、子孫のために美しき山河を残したいものである。

橘宗義(たちばなそうぎ)

1941(昭和16)年、京都府に生まれる。
花園大学卒業。埼玉県野火止・平林寺僧堂に掛塔の後、大本山大徳寺別院徳禅寺代表役員・住職に就任。 大徳寺執事、大徳寺派庶務部長、同宗務支所長、日中友好臨済・黄檗協会理事等を歴任。その間、徳禅寺護持と開山・徹翁和尚顕彰を目的とする徳禅寺護持会を設立、現在に至る。
著書に「大徳寺一行名品集」(共著、求龍堂、2000)などがある。


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