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拝啓、中村正義さま◆籔内佐斗司より
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THE WORLD OF YABUUCHI Satoshi・sculptor

の多くは、行き場を失っていたというのが現実でした。学園紛争と呼ばれた小児病的破壊運動の結果、大学の精神的荒廃と管理強化は国立大学である芸大でも顕著でした。そんな時代にあって、「東京展」の掲げる「無審査による市民のための自由な発表の場」は、ある意味ではとても新鮮に映り多くの美大生たちも出品していました。
 しかし当時の私は、あの展覧会がひとりの絵描きが「日展」という権威に対して抱いた義憤から生じたものであったことを知りませんでしたし、どちらの展覧会にもほとんど興味はなかったというのが正直なところです。友達とともに展覧会には出かけましたが、玉石混交たる会場風景に嫌悪感さえ抱いたことを率直に申し上げましょう。もちろんこのことは、中心的立場におられたあなた自身が一番強く感じていたことだと思います。
 あなたが亡くなられて二十年が過ぎ、民主や市民、変革などということばも、いまや手垢にまみれ人々のこころに響くちからを失ってしまいました。
 川崎の「中村正義の美術館」で見せていただいたビデオのなかで、あなたは繰り返し言っておられました、「この国を変えるのは今しかないんだよ。」ちょうど三島由紀夫が市ヶ谷の駐屯地で叫んだように。
 その後の日本がどのように変わったのか、変わらなかったのか、三島もあなたも生きて見ることはありませんでした。今の日本、あの世からご覧になっていかがですか。

 いま私の手元にはあなたがお使いになったたくさんの絵の具皿があります。この秋に私がたまたま訪れた益子に住む陶芸家のK氏に、あなたとの「ふたり展」のことをお話ししたところ、「うちに中村正義の絵の具皿があるよ」ということになり、時を置かずに送られて来たものです。まったく不思議なご縁で私がお預かりすることになりましたが、近いうちに川崎のあなたの美術館にお返しに上がるつもりでいます。

 展覧会にあわせて、私はあなたの作品に触発されたいくつかの作品を作りました。
 シニカルに笑うあなたの顔が目に浮かびますが、生きてお目にかかることのなかっ
たあなたに対する私の精一杯のオマージュです。どうかお受け取り下さい。
 乱筆乱文をお許し下さい。

  平成九年十一月吉日

あなたと同じ五月十三日に生まれた
籔内佐斗司より

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