口　上

まだ芸大の助手をしていた28才の夏に、三重県
松坂市の青年会議所が催した彫刻シンポジウムに
参加した事があります。その時に公開制作した
木彫レリーフを市の文化会館にとりつけてもらっ
てから今日までの13年間に、不特定多数のひとびと
に親しんでもらうために制作・納入した彫刻作品
は26施設、大小あわせて約60点を数えます。その
ひとつひとつは、それを造り設置した時に出会っ
たたくさんのひとたちとともに、とても思いで深
いものばかりです。そして、その後そこにあつま
るひとたちとどのように関わり、どのような場を
作り出しているかを見続けることは、作品を生み
出してしまった私の責任だと考えています。
　1993年に出版したMETAL WORKS OF YABUUCHI
Satoshi Vol.1では、主に'88~'93に制作したブロン
ズ作品を中心にまとめました。
今までも、そしてこれからも私の表現活動は、
私の創り出す世界に共鳴し応援して下さる様々な
ジャンルのたくさんのひとたちとの共同事業だと
思っています。ですから掲載のそれぞれの作品に
は、感謝の気持ちを込めて、できるかぎり詳細な
関係者のデータを添えました。写真撮影や紙面の
都合でやむなく割愛させていただいた施設や作品
もありますが、機会を改めてご紹介させていただ
くつもりです。
　自然環境の構造から人間社会のシステム全般に
わたって大きな変革期を迎える時に、よりよき生
活空間を創り出していくうえで我々「もの造り」
が何を為すべきか、そしてしてはならないことは
何なのかを自問しつつ、これから行動を共にして
いただけるひとびとへ、この小冊子を通じ連帯の
メッセージを送ります。

1995年3月　　　　籔内佐斗司